お決まりの公民館ダンスのスタートはブルース。
ステップ自体は難しくありませんでしたが、
スロー、スロー、クイック、クイック。
……ええっ?
それ、1・2・3・4・5・6 の 6拍だけ だけど、残りの 2拍はお休み?
そんな説明はどこにもなく、
その仕組みに気づくまで 何か月もかかった のを覚えています(笑)。
次に出てきたのがルンバ。
「2、3、4、1 で踊るんですよ」
……何それ?
完全に 1拍後ろにズレている ようにしか見えない。
ルンバの1小節は、
音楽の小節をまたいで構成されている という事実。
これを知ったときは衝撃でした。
「こんな世界があるのか」と。
音楽を少しかじっていた私にとって、
まるで 不思議な迷宮に迷い込んだ ような感覚でした。
でも おもしろそう!!
スローフォックストロット。
その優雅な響きを頼りにデジタルの海を漕ぎ出すと、
JDSF(日本ダンススポーツ連盟)という大きな港に行き当たります。
その種目紹介ページには、
美空ひばりの名曲 『川の流れのように』 が
スローフォックスのイメージとして紹介されています。
ゆったりと流れるような曲調は、
確かにスローフォックスの優雅さを連想させます。
実はこの組み合わせ、
音楽的には かなりスリリングなミスマッチ なのです。
理由は明確で、
🎵 『川の流れのように』は 正確無比な 8ビート(イーブン)
🎵 スローフォックストロットは しなやかな 4ビート(スウィング)
つまり、
コーヒーだと思って口にしたらコーラだった。
そんなズレが生じているのです。
「まさか」と思われるかもしれませんが、
実際の動画で ドラムの刻み に耳を澄ませてみてください。
8ビートの“カチッとした鼓動”と、
スローフォックスの“揺らぎ”が、
まったく違う世界のリズムで動いていることに気づきます。
イントロと 2 フレーズ目以降、
ドラマーの右手ハイハットが小気味よく
チッ・チッ・チッ・チッ
と、明確に 8ビート(8分音符) を刻んでいるのが分かります。
メロディにも、
スウィング特有の “タメ” や “跳ね” は見受けられません。
この曲を スローフォックスで踊るには スゥイング調のアレンジが必要です。
ギターでメロディだけを スゥイング調に弾いてみると、 こんな感じです。
(左プレヤーの三角マークを 押すと 音が出ます)
先ほど触れた『川の流れのように』。
スローフォックスとの音楽的ミスマッチを指摘したものの、
これを「明確な誤り」と断言できないという、厄介なジレンマがあります。
理由はシンプルで、
ダンス界の教典・テキスト類には、
「スローフォックスはスウィングする4ビートで踊る」
という規定が一切存在しない からです。
競技ダンスだけでも 10 種目。
それぞれに相応しい音楽があるはずなのに、
公式に定められているのは 拍子とテンポのみ。
ダンスの魂を決めるはずの
リズムやビートの構造 については、
驚くほど沈黙しています。
実際の種目説明を覗くと、
そこにあるのは情緒的な表現ばかり。
スタッカートの効いた曲調、歯切れが良く軽快な4拍子
リズム遅めの4拍子、ムーディでしっとりした音楽
ゆったりと流れるような4拍子
アップテンポな4拍子、軽快で速いテンポ
軽快で歯切れの良い、南米キューバの音楽
……といった具合で、
音楽の設計図となる理論的根拠はどこにも示されていません。
これはダンス界における 不可思議な理論の空白。
最も肝心な部分が、ふわりと宙に浮いたままなのです。
答えは驚くほどシンプルで、
そして驚くほど奥深いものです。
それは――
規定ではなく、
長い歴史の中で培われてきた
ダンサー達の共通認識。
目に見えない、しかし強力な
“紳士淑女協定” が、この世界を支えています。
ダンスパーティーの生バンドも、
JDSF公式CDも、市販のダンスCDも、
すべてこの 言葉にならないルール に従って選曲されています。
ルンバにスウィングの曲は存在しない
スローフォックスにイーブンの曲も存在しない
つまり、
“みんなが分かっていること” として運用されている のです。
しかし、ここに問題があります。
「みんなが分かっている」わけでは、決してない。
知っている人には常識でも、
知らない人には雲の上の話。
Google検索で
「川の流れのように → スローフォックス」
という図式が受け入れられてしまうのも無理はありません。
ダンス種別ごとに拍子とテンポは決められていますが、
その前に理解すべき最重要ポイントがあります。
それは、
この“リズムの骨格”を見抜くことが、
最も根本的で、最も重要です。
これを知らずに踊るのは、
ソースを知らずに料理をするようなもの。
味が合えばいい、と思っても、
背景を知っているかどうかで
表現の深みは大きく変わります。
あるWebサイトでそんな記述を見かけ、
思わず目を疑いました。
テンポが近ければ踊れないことはないでしょう。
しかし音楽的にはまったく別物。
“踊れる” と “適している” は似て非なるもの なのです。
イーブンとスウィングの違いは、
決して難しい理論ではありません。
少しの説明と音源比較で、
「なるほど!」と膝を打つ理解が得られます。
そしてそれは単なる豆知識ではなく、
踊り手としての深みや感性を確実に育てるもの。
長い年月をかけて経験で体得する前に、
少しの時間で理論を学べば、
道のりはぐっと短くなります。
「え、それだけのこと?」
そう思える程度の、しかし決定的な差が、
そこにはあるのです。